■ 再検の結果、好中球も多かった ——なのに、誰もそれを話題にしない
先日のブログの続き。思い出したことがあったので追記です。
健康診断で白血球 10,000/μL を指され、 内科で再検査を受けたわたし。 先生の診断は、あの一言。 「ストレスですね」 ……で、終わったわけですが。 結果用紙をよく見てみると、 好中球の数値も、 基準上限のほうにぴったり張りついていました。つまり、 白血球も多かったし、 好中球も多かった。 でも会話では、好中球の話は 一度も出ませんでした。 白血球は「再検→ストレスですね」と ちゃんとスカウトされたのに、 主戦力の好中球は無提名。 好中球からしたら、 「動員したのはこっちなんですが」 という心情だったと思います。 不憫でならないので、今回は 好中球の名誉回復を兼ねた 文献メモです。
■ 好中球が増えるのは、 ほぼ「算数」だった
まず、ここから。 総説 (Alotiby 2024) によれば、
“Neutrophils, the most abundant white blood cells, respond rapidly to infections by phagocytosis, releasing antimicrobial substances from granules and using neutrophil extracellular traps (NETs) to capture pathogens”
(訳:好中球は最も数の多い白血球で、 食作用で感染に素早く応じ、 顆粒から抗菌物質を放出し、 NETs(好中球細胞外トラップ)で 病原体を捕まえる) 出典:Alotiby A. J Clin Med (2024) ▶論文リンク
そう、白血球の約半分〜7割は もともと好中球なんです。 だから白血球が 10,000 まで上がるなら、 好中球が多くなるのは、 ほぼ算数。 前置きが長くなりましたが、 ストレスで好中球が増えるしくみは こんな感じです。 前回の話の「縁辺プール」、 覚えていますか。 血管の壁に張りついて待機している 白血球の隠れ家です。 ストレスで出る コルチゾールが、 この壁貼り付け組—— 主に好中球——を 血流へ剥がして動員します。 そして Dhabhar らの論文には、 こんな一節があります。
“a decrease/trafficking of all cell types out of the blood, except neutrophil numbers that continued to increase”
(訳:ほかの細胞は血流から出ていくのに、 好中球の数だけは増え続ける) 出典:Dhabhar FS. Psychoneuroendocrinology (2012) ▶論文リンク
つまり好中球は、 ストレス反応の主役級。 増えるのがむしろ王道パターンで、 先日のわたしの数値は 教科書どおりだったわけです。 ヒトでの直接的な検証もあって、 脳卒中という強いストレス状態の患者を 調べた研究のタイトルは、ずばり 「白血球数の変化を駆動するのは メタネフリン(アドレナリン代謝物)より コルチゾールである」 出典:Zierath D et al. J Stroke Cerebrovasc Dis (2018) ▶論文リンク
副腎皮質(コルチゾール)の寄与が大きい、 というヒトでの実測。 「ストレスですね」は、 実はかなり正確な情報だった、 ということになります。
……説明がゼロだったのを 除けば、ですけど。
■ 数は多いのに、働きは弱い? 好中球の最新事情
ここからが本題です。 短期のストレスなら、 増えた好中球はちゃんと働いて、 数時間〜1日で元に戻ります。 問題は慢性化したとき。 2025年の総説 (Obeagu ら) では、
“Prolonged exposure to high levels of cortisol can impair neutrophil function, reducing their ability to migrate to sites of infection”
(訳:高濃度のコルチゾールへの 長期的な曝露は好中球の機能を損ない、 感染部位への移動能力を落とす) 出典:Obeagu EI et al. (2025) ▶論文リンク
コルチゾールは好中球の寿命を延ばすので、 「死なずに、でも動けない」好中球が 血液に溜まりやすくなるのだとか。 つまり慢性的なストレス下では、 数値(数)は多いのに、 防御力は下がっている という、ちょっと歪な状態が生じます。
好中球、内定は出たのに 配属先で閉じ込められてる状態ですね。
――― ここで、最新トピック ―――
① 血算データが「心の病気」のサインに? JAMA Psychiatry (2024) の大型コホート研究。 なんと 585,279人を解析しています。
“individuals with a higher than median level of leukocytes (hazard ratio [HR], 1.11; 95% CI, 1.09-1.14) … had an elevated associated risk of any psychiatric disorders”
(訳:白血球数が中央値より高い人は、 その後の精神疾患(うつ・不安・ ストレス関連障害を含む)の リスクが有意に高かった) 出典:Zeng Y et al. JAMA Psychiatry (2024) ▶論文リンク
しかも軌跡を調べると、 診断の最大30年前から 対象群の白血球数は高い水準にあった、と。 白血球の多さは、 心の不調の先行指標に なりうるかもしれない、という話です。
② 好中球/リンパ球比(NLR)という見方 「白血球の総数」より、 内訳のバランスのほうが 情報量が多い、という考え方もあります。 好中球÷リンパ球の比(NLR)は、 うつ病のバイオマーカーになりうるという メタ解析報告があります。 出典:Cheng Y et al. Front Psychiatry (2022) ▶論文リンク
PTSD でも、NLR・PLR・SII といった 血算由来の炎症指標を調べる研究が 進んでいます(80人 vs 80人の比較研究)。 出典:Yontar G, Mutlu EA. BMC Psychiatry (2024) ▶論文リンク
そう、つまり—— あの健診用紙の「好中球の数」、 スルーせず読めば、 ストレスや心の状態の鏡になる。
わたしの好中球、 スカウトされただけは あった、というわけです。
■ わたしが見直したこと
① 総数だけでなく、内訳を見る 好中球・リンパ球のバランス(NLR)まで 目を向ける。数値はセットで読む。
② 再検の条件を揃えてから測る 直前の運動を避け、睡眠を取り、 朝に測る。急性の動員成分を 切り分けられます。
③ 慢性化チェックを自分でやる 風邪をひきやすい、口内炎が治りにくい、 傷の治りが遅い——続くようなら きちんと相談。
④ 結局、基本の睡眠・運動・呼吸 4秒吸って8秒吐く呼吸は継続中。 医師の「ストレスですね」は、 間違ってはいませんでした。
白血球も、好中球も、 コルチゾールが動員した結果で、 矛盾なくつながっている。 ただ、数値の背景を 一言で片付けられると、 こちらとしては消化しきれない、 というのが正直なところ。 健診の数値は「点数」じゃなくて、 体が送ってくる一行メモ。 内訳まで読んで、初めて 本文が見えてくるのかもしれません。
※この記事は体験談と文献メモであり、 医療上の助言ではありません。 好中球の基準値は施設により異なります。 数値の変化が続く場合は、 必ず医療機関にご相談ください。
■ 参考にした論文・資料
・Dhabhar FS. Stress-induced redistribution of immune cells. Psychoneuroendocrinology (2012) ▶PMC3412918 ・Alotiby A. Immunology of Stress: A Review Article. J Clin Med (2024) ▶PMC11546738 ・Obeagu EI et al. Stress, neutrophils, and immunity (2025) ▶PMC12140713 ・Zierath D et al. Cortisol is more important than metanephrines in driving changes in leukocyte counts after stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis (2018) ▶論文リンク ・Zeng Y et al. Inflammatory Biomarkers and Risk of Psychiatric Disorders. JAMA Psychiatry (2024) ▶論文リンク ・Cheng Y et al. NLR/PLR/MLR in depression: systematic review and meta-analysis. Front Psychiatry (2022) ▶論文リンク ・Yontar G, Mutlu EA. NLR, PLR and SII in patients with PTSD. BMC Psychiatry (2024) ▶論文リンク


