その立ちくらみ、「年のせい」で済ませていませんか

その立ちくらみ、「年のせい」で済ませていませんか

血圧と脳の話 / ご家族と読む記事

立った瞬間の、あの3秒。私は見逃してほしくないのです。診察室で何度も見てきた、その先の話をします。文字を大きくする

もくじ

  1. 立ちくらみの正体
  2. その立ちくらみ、「貧血」で片付けていませんか
  3. チェックしてみてください
  4. なぜ高齢者に多いのか
  5. 血圧の薬の話
  6. 「血圧が低いと認知症になる」という話
  7. 今日からできる、6つのこと
  8. こんなときは診察で話してください

お読みになる前に

この記事は、一般的な情報をお伝えするものです。診断や治療の代わりにはなりません。お薬は、自己判断で中止したり減らしたりしないでください。気になる症状があるときは、かかりつけの先生にご相談ください。

1立ちくらみの正体

人は立ち上がるとき、重力で血液が下半身にたまります。それを脳に送り返すために、血管が細くなり、心臓が少し速く打つ。この調整をしているのが自律神経です。

歳をとると、この調整が鈍くなります。だから立った瞬間、脳に届く血液が一瞬足りなくなる。これが起立性低血圧です。

診断のめやす

寝た状態から立ち上がって、3分以内に上の血圧が20mmHg以上下がる、または下の血圧が10mmHg以上下がる。

血圧を測ったことがある方は、通院時の数値と見比べてみてください。

もうひとつ、見落とされやすいのが食後低血圧です。食事のあと、消化のために血液がお腹に集まります。そのぶん脳へ回る血液が減る。だから食事のあと30分〜1時間、ぼんやりする、眠くなる、ふらつく。

これも「年のせい」にされがちですが、立派な低血圧です。

2その立ちくらみ、「貧血」で片付けていませんか

ここが、今回いちばんお伝えしたいところです。

「立ちくらみ=貧血」——日本人の多くが、子どものころからこの言い方を身につけています。テレビでも「貧血気味で」という言葉をよく耳にします。だから、ふらつくと「ああ、貧血だ」で終わってしまう。

でも、貧血かどうかは、血液検査をしなければわかりません。症状だけで「貧血だから」と決めるのは、実は推測なのです。

貧血と起立性低血圧は、仕組みが違います

同じ「立ちくらみ」でも、中身は別物

くらべる項目起立性低血圧貧血
何が問題か血液の配分が失敗する酸素を運ぶ力が足りない
血液の量足りている足りている(ただし濃さが薄い)
主な原因自律神経・血管・薬鉄不足、出血、慢性の炎症、腎臓の働き
症状が出る時立った瞬間(数秒〜数十秒)安静にしていても。階段や運動で悪化
主な症状目の前が暗くなる、ふらっとする、耳が遠くなる息切れ、動悸、疲れやすい、顔色が悪い
確かめ方起立試験(寝て、立って、血圧を測る)血液検査(ヘモグロビン、フェリチン)

ひとつ覚えておいてください。

起立性低血圧は「血液が足りない」のではなく、
「血液をうまく配れない」病気です。

だから、貧血の薬を飲んでも良くなりません。逆に、貧血があるのに「年のせい」と片づけていれば、原因が隠れたままになります。

そして大事なのは——この2つは、同時に起こります。高齢者では、貧血があり、かつ自律神経の調整も落ちている、ということが珍しくありません。どちらか一方に決めつけると、もう片方を見落とします。

「貧血だから」で済ませると、何を見落とすか

ここは、少し怖い話をします。でも、知っておいてください。

高齢者の鉄欠乏性貧血では、その過半数が消化管からの出血が原因とされています。国立長寿医療研究センターも、こう明記しています。

専門機関の記述

「高齢者ではその過半数が消化管出血が原因で、消化器悪性腫瘍を念頭におき内視鏡検査等を実施することが重要です」

— 国立長寿医療研究センター「高齢者の貧血について」

少しずつ出血が続くと、便は黒くも赤くもなりません。気づかないうちに、Hb(ヘモグロビン)だけがじわじわ下がっていく。胃がんや大腸がんが、貧血をきっかけに見つかることは珍しくないのです。

特に、男性と、閉経後の女性の鉄欠乏性貧血では、鉄剤を始める前に出血源を確認する——これが各国のガイドラインで共通して推奨されています。

つまり——

いちばん危ない対応

「貧血だから」と自分で決めて、鉄剤を買って飲む。

鉄剤を飲むと数値は良くなってしまいます。良くなったように見えることで、本当の出血源を隠してしまう。これが、いちばん避けたいことです。

食品で鉄分をとるのは構いません。でも「貧血を指摘されたら、まず検査」が原則です。

そして、貧血もまた、脳に響きます

話を「脳の血流」に戻します。貧血があると、血液が薄くなり、脳に運べる酸素の量が減ります。

貧血と認知機能の関係(研究のまとめ)

調べたことリスクの倍数信頼できる範囲
認知機能障害約1.5倍1.32 〜 1.73
認知症約1.46倍1.22 〜 1.76

これは「貧血が認知症の原因」と決まったわけではありません。でも、「貧血だから立ちくらみ」で片づけて放置することが、脳にとって中立ではないことは、示唆されています。

3チェックしてみてください

当てはまるものを、指で押してみてください。下に数が出ます。

立ちくらみ(起立性低血圧)のサイン

症状チェック
立った瞬間に、ふらっとする
目の前が暗くなる、黒くなる
朝、布団から出るのがつらい日がある
食事のあと、30分くらいぼんやりする
長時間座ったあと、急に立つと危ない
暑い日、お風呂のあと、調子が悪くなる
最近、薬の数が増えた

貧血のサイン

症状チェック
階段や、少しの坂で息が切れる
動悸がする
顔色が悪いと言われる
爪が割れやすい、スプーン状に反る
氷を無性にかじりたくなる
舌がヒリヒリする、口角が切れる

立ちくらみの欄0 / 7

貧血の欄0 / 6

まだ選ばれていません。

数の見かた

数どうするか
立ちくらみ3つ以上次の診察で話してください
貧血2つ以上血液検査を受けてください(市販の鉄剤で自己判断しない)
両方に当てはまる両方調べる必要があります。片方で済ませないでください

痛みも熱もないので、つい我慢してしまいます。でも、痛みがないことと、危なくないことは、別です。

4なぜ高齢者に多いのか

理由は、ひとつではありません。

1. 自律神経の調整力が落ちる

歳とともに、血管を締める反応も、心臓を速くする反応も鈍くなります。

2. 水分が足りない

のどの渇きを感じにくくなるので、気づかないうちに脱水になります。夏も冬も同じです。

3. 薬の影響

これが意外と多い。血圧の薬、利尿剤(水を出す薬)、睡眠薬、前立腺の薬、抗うつ薬。どれも血圧を下げる方向に働くことがあります。

覚えておいてください

薬が増えたら、立ちくらみも増える。これは、診察室でよく見るパターンです。

4. 寝ている時間が長い

寝たきりに近い状態が続くと、体が「横になったまま」に慣れてしまいます。起きるたびに血圧が落ちる。

5. 食後

先ほどお話しした食後低血圧です。

6. 貧血・栄養の問題

胃酸の分泌が減り、鉄の吸収が落ちます。噛む力が弱くなって、肉や魚を避けるようになる。慢性的な炎症や腎臓の働きの低下も、貧血に関わります。

5血圧の薬の話——ここは間違えないでください

「立ちくらみがあるなら、血圧の薬を減らしたほうがいいのか」

よく聞かれます。答えは、自分で判断しないでください、です。

1. 薬をやめると、脳卒中の危険が上がる

これは確実な話です。血圧の薬を自己判断で中止すると、脳卒中や心筋梗塞の危険が上がります。立ちくらみの心配より、こちらのはるかに大きい危険です。

2. 薬は脳の味方でもある

血圧を厳しく下げたグループでは、軽度認知障害(MCI)が19%少なかったという大規模な試験の結果が出ています(SPRINT MIND)。血圧の管理は、認知症の予防にもプラスに働く。薬は敵ではありません。

3. 目標値は2025年に変わった

血圧の目標値(日本高血圧学会)

時期75歳以上の目標
2019年まで診察室で 140/90 未満
2025年7月から診察室で 130/80 未満、家庭で 125/75 未満

ただし、ガイドラインにはこう書かれています。

「低血圧の症状や電解質の異常に注意しながら、
有害事象が起きない範囲で個別に目標を決める」

つまり、元気に歩ける方と、体が弱ってきた方では、実際の目標は違っていい。その調整は、先生の仕事です。あなたの仕事ではありません。

「最近ふらつくんです」と伝える。それだけで、先生は薬の量も、種類も、目標も見直してくれます。黙って減らすより、百倍いい。

6「血圧が低いと認知症になる」という話について

ここで、テレビやネットで見かける話に触れておきます。

「血圧が低い人は認知症になりやすい」——これは、半分本当で、半分違います。

本当の部分:たしかに、そう見えるデータはあります

低い血圧と認知症の関連をみた研究

研究対象結果
Kungsholmen 研究
BMJ 1996年
75〜101歳
1,642人
血圧140/90未満の人は、認知症と診断されている割合が約3倍
Bronx Aging Study
Neurology 2003年
75歳以上
406人・最長21年
下の血圧70mmHg以下で約1.9倍。2年間ずっと低いままだと約2.2倍

違う部分:この研究の著者自身が、こう書いています

「低い血圧は、おそらく認知症のプロセスの
結果である」

認知症は、物忘れが目立つずっと前から、脳の中で静かに始まります。そして脳が変わってくると、血圧を調整する力そのものが落ちてくる。食が細くなり、体重も減る。だから血圧が下がる。

つまり——血圧が低いから認知症になったのではなく、認知症が始まっていたから血圧が下がっていた、という可能性が高いのです。

だから、どう考えるか

血圧が低いこと自体を、怖がる必要はありません。元気に歩けているなら、それは良い状態です。

でも、血圧が下がってきたときは、体からのサインかもしれない。だからこそ、毎日の記録が物を言います。「去年より下がった」「夏から低い」——その変化が、先生にとっての大事な情報になります。

そしてもうひとつ。転倒そのものが、脳にとって良くないということも、覚えておいてください。転んで頭を打つ。骨折して動けなくなる。動かない日が続くと、体力も気力も落ちる。この悪循環は、認知機能にも確実に響きます。

7今日からできる、6つのこと

1. 血圧手帳をつける

朝と夜、座って5分休んでから測る。できれば立った直後も一度。座ったときと立ったときの差が、そのまま先生に伝わる大事な情報になります。

2. 「ふらつきメモ」をつける

いつ、どんなときにふらついたか。「立った瞬間」なのか、「階段を上ったとき」なのか。この違いが、起立性低血圧と貧血を分ける手がかりになります。スマホのメモで十分です。

3. ゆっくり立ち上がる

ベッドから起きるときは、一度座って、足を下ろして、それから立つ。3秒数えるだけで違います。夜中にトイレに行くときは、特にゆっくり。

4. 水分をとる

のどが渇かなくても、コップ1杯を1日6〜7回。目安は1日1〜1.5リットルです(心臓や腎臓の病気がある方は、主治医の指示に従ってください)。起き抜けと、入浴の前後に必ず1杯。

5. 食事で、鉄とたんぱく質を

赤身の肉、魚、卵、大豆製品、ほうれん草、小松菜。ビタミンCと一緒にとると吸収が良くなります。

ここだけは

「貧血かも」と自己判断して、市販の鉄剤を飲むのはやめてください。検査の前に飲むと、本当の原因が隠れます。

6. 歩く、人に会う、よく眠る

2024年の国際的なまとめ(ランセット認知症委員会)では、認知症の約45%は、生活習慣の見直しで予防・先送りできると報告されました。鍵になるのは、運動、血圧、聴こえ、人とのつながり、睡眠、気分の落ち込みです。

8こんなときは、次の診察で必ず話してください

こんな症状考えられること
立った瞬間に、ふらっとする起立性低血圧
目の前が暗くなる、黒くなる起立性低血圧・不整脈
食事のあと、ぼんやりする食後低血圧
朝、起き上がれない日がある起立性低血圧・不眠・うつ
最近、物忘れが急に増えた薬の影響・脳の病気
薬の数が増えた多剤併用による血圧低下
原因がわからないまま転んだ起立性低血圧・不整脈
「貧血」と言われたことがある鉄欠乏・消化管出血

どれも「年のせい」で片づけられがちです。でも、薬の調整や、ちょっとした工夫で良くなるものが、たくさん混ざっています。

「年のせいですね」と言われたら、こう聞き返してみてください。

「それって、放っておいて
大丈夫なものですか」

「貧血かもしれない」と思ったら、こう言ってみてください。

「血液検査で、貧血かどうか
見てもらえますか」

それだけで、話は前に進みます。

終おわりに

血圧の話は、つい「高いか低いか」で終わってしまいがちです。

でも本当に大事なのは、「あなたの体にとって、いまの血圧は心地よいか」ということ。

数値が低くても、元気に歩けているなら、それは良い状態です。数値が低くて、ふらついて、転びそうになるなら、それは調整が必要な状態です。

そして、立ちくらみの原因は、ひとつとは限りません。自律神経かもしれない。薬かもしれない。貧血かもしれない。いくつかが重なっていることも、珍しくありません。

だから、「年のせい」でも、「貧血だから」でも、決めつけないでください。

決めつけなければ、調べられます。
調べれば、直せるものがあります。

最後にもう一度だけ。

血圧の薬は、自分でやめないでください。
鉄剤も、自分で飲み始めないでください。

気になることがあれば、次の診察で「最近こういうことがあって」と話す。それだけで十分です。

立ちくらみは、年のせいではありません。そして、年のせいではないということは、今から変えられるということです。

孫おまけ:お孫さんの話

最近、子どもや孫の世代で「起立性調節障害」という言葉を聞いたことはありませんか。

朝起きられない、立ちくらみがする、学校に行けない。あれは怠けではなく、立ち上がったときに脳の血流が落ちてしまう病気です。中学生の約10%にみられ、不登校の3〜4割に重なると言われています。

そして、成人しても約40%は症状が続くという報告があります。

高齢者の起立性低血圧と、子どもの起立性調節障害は、同じ病気ではありません。でも「血圧が下がりやすい体と、どう付き合っていくか」という点では、どこか通じるものがある。

お孫さんで気になる子がいたら、ぜひ一度、小児科に相談してみてください。「気合が足りない」で終わらせないことが、その子の将来を守ることにつながります。

むずかしい言葉の読みかた

言葉読みやさしい説明
起立性低血圧きりつせいていけつあつ立ち上がったときに血圧が下がり、脳の血流が減る状態
食後低血圧しょくごていけつあつ食事のあと30分〜1時間、血圧が下がる状態
自律神経じりつしんけい血圧や脈を、自分の意思と関係なく調整する神経
鉄欠乏性貧血てつけつぼうせいひんけつ鉄が足りず、酸素を運ぶヘモグロビンが作れない貧血
消化管出血しょうかかんしゅっけつ胃や腸から、少しずつ血が出ること
内視鏡検査ないしきょうけんさ胃カメラ・大腸カメラで、中を直接見る検査
脱水だっすい体の水分が足りなくなった状態
起立性調節障害きりつせいちょうせつしょうがい子ども・思春期に多い、立ちくらみや朝起きられない病気

参考文献を見る(8件)

  1. Guo Z, et al. Low blood pressure and dementia in elderly people: the Kungsholmen project. BMJ. 1996;312:805-808.
  2. Verghese J, et al. Low blood pressure and the risk of dementia in very old individuals. Neurology. 2003;61(12):1667-72.
  3. SPRINT MIND Investigators. Effect of Intensive vs Standard Blood Pressure Control on Probable Dementia. JAMA. 2019;321(6):553-561.
  4. 日本高血圧学会「高血圧管理・治療ガイドライン2025」(2025年7月公表)
  5. 国立長寿医療研究センター「高齢者の貧血について〜老人性貧血=Unexplained Anemia」
  6. Kim HB, Park B, Shim JY. Anemia in association with cognitive impairment: a systematic review and meta-analysis. J Alzheimers Dis. 2019.
  7. Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024.
  8. 日本小児科学会「アンケート 2 疾患名:起立性調節障害」2016.

この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、医療上の助言や診断に代わるものではありません。症状が続く場合は、必ず医療機関にご相談ください。

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