はじめに:そのお気持ち、わかります
「また今朝も起きられなかった…」 「朝礼で倒れたと学校から連絡が…」 「午前中はぐったりなのに、夕方から元気って…」
お子さんの起立性調節障害(OD)で悩まれているママ、本当にお疲れ様です。
周りから「甘やかしすぎじゃない?」なんて言われて、傷ついていませんか? お子さん自身も「怠けてるって思われてる…」と苦しんでいませんか?
でも、大丈夫。これは「気合い」や「根性」の問題じゃありません。
今日は、起立性調節障害がなぜ起こるのか、体の仕組みから分かりやすく説明します。 これを読めば、お子さんの辛さが理解でき、適切なサポートができるようになりますよ。
1. まず知ってほしい:起立性調節障害は「体の自動調整機能の故障」
🌟ポイント:誰でも立つと血圧は下がる
実は、健康な人でも立ち上がると血圧は一時的に下がります。
なぜかというと…
座っている状態
↓
立ち上がる
↓
重力で血液が下半身に流れる(約500〜800ml)
↓
心臓に戻る血液が減る
↓
脳への血流が減る
普通なら「あれ?クラクラする」となるはずですよね。
でも、健康な体には「自動調整システム」があるんです!
2. 【正常な体】血圧を守る「3段階の自動調整システム」
健康なお子さんの体では、立ち上がった瞬間にこんなことが起きています:
⚡️第1段階:超高速センサー(0.5秒以内)
首と心臓の血管にある「圧受容器」というセンサーが血圧低下をキャッチ
圧受容器:「血圧が下がった!緊急事態!」
↓
脳(延髄):「了解!すぐ対応する!」
⚡️第2段階:自動指令システム(1〜2秒)
脳から自律神経(交感神経)を通じて心臓と血管に指令
脳→背骨の中(脊髄)→神経節→心臓・血管
心臓へ:「もっと速く、強く打て!」
血管へ:「ギュッと収縮して血圧を上げろ!」
⚡️第3段階:ホルモンでサポート(数分)
副腎からアドレナリンというホルモンが分泌
副腎:「アドレナリン、出動!」
↓
血液を通じて全身をサポート
↓
血圧を維持し続ける
結果:1〜2分以内に血圧が元に戻り、めまいもなく立っていられる
これが健康な体の自動調整です。

3. 【起立性調節障害】何が壊れているの?
起立性調節障害のお子さんは、この自動調整システムのどこかが上手く働いていません。
❌ パターン1:センサーの反応が遅い
圧受容器:「あれ?血圧下がってる…気づくの遅れた」
↓
脳への連絡が遅い
↓
対応が間に合わない
↓
脳への血流が減ったまま
↓
めまい、立ちくらみ、失神
❌ パターン2:神経の指令が届かない
脳:「心臓、頑張れ!」
↓
でも…交感神経の働きが弱い
↓
心臓:「指令が弱くて聞こえない…」
↓
心拍数が上がらない
↓
血圧が上がらない
❌ パターン3:副腎が疲れている(副腎疲労)
副腎:「もう疲れた…ホルモン出せない…」
↓
サポート体制が崩壊
↓
朝のコルチゾール(目覚めホルモン)も出ない
↓
朝起きられない、午前中ぐったり
4. なぜウチの子が?起立性調節障害になる3つの原因
💡原因1:成長期の体の変化
思春期は血管が急成長する時期
- 身長が伸びる→血管も伸びる→血液が行き渡りにくい
- ホルモンバランスの変化→自律神経が不安定
- 中学生の約10%、小学生の5%に発症
💡原因2:過度なストレス
- 受験勉強のプレッシャー
- 友人関係の悩み
- 習い事や部活の過密スケジュール
- 家庭環境の変化
ストレスで副腎が疲れる→自動調整システムがダウン
💡原因3:現代っ子の生活習慣
- スマホ・ゲームで夜更かし→睡眠不足
- デジタルデバイスの長時間使用→脳の前頭葉が疲労
- 運動不足→筋力低下→血液を心臓に戻す力が弱い
- 偏った食事→栄養不足
5. 「朝礼で倒れる」のはなぜ?
🌅 朝が特に辛い理由
起立性調節障害の最大の特徴:朝のコルチゾール不足
健康な子:
夜中3時→コルチゾール分泌開始
朝8時→コルチゾールピーク
「よし!起きるぞ!」
起立性調節障害の子:
夜中3時→コルチゾールほとんど出ない
朝8時→まだ出ない…
「体が起動しない…」
コルチゾールの役割:
- 血糖値を上げる→脳のエネルギー
- 血圧を上げる→立っていられる
- 目覚めのスイッチを入れる
これが不足すると… →朝起きられない、午前中は低血圧、立っているのが辛い
📢 朝礼で倒れる仕組み
1. 朝から体調が悪い(コルチゾール不足)
↓
2. 校門まで歩く(すでに疲れている)
↓
3. 朝礼で長時間立つ
↓
4. 血液が下半身に溜まる
↓
5. 自動調整システムが働かない
↓
6. 脳への血流が減り続ける
↓
7. 意識を失う(脳の防衛反応)
倒れるのは「体の防衛反応」
脳:「このままじゃ危ない!横になって血液を脳に送ろう!」 →意識を失わせて強制的に倒す
つまり、倒れるのは体を守るための正常な反応なんです。
6. 夕方から元気なのはなぜ?
「午前中はぐったりなのに、夕方から急に元気になって遊んでる…」
これ、よく誤解されますよね。
🌆 午後に元気になる理由
朝→昼→午後と時間が経過
↓
コルチゾールが徐々に分泌
↓
自律神経のバランスが整ってくる
↓
午後3時〜夕方:一番調子が良い時間帯
これは「怠け」じゃなく、体の自然なリズムです。
起立性調節障害の子は「体内時計が3〜4時間遅れている」イメージ。
健康な子の朝8時 = ODの子の正午 健康な子の正午 = ODの子の夕方
7. ママができる5つのサポート
✅ 1. 水をしっかり摂る
血液量を増やすことが重要!
- 水:1日2〜3リットル
- 天日塩:10g程度(医師に相談)
- 朝起きる前に、枕元に水を置く
✅ 2. 朝の起き方を工夫
× いきなり起き上がる
○ ゆっくり段階的に
1. 目を覚ます
2. 布団の中でゆっくり手足を動かす(30秒)
3. 上半身だけ起こす(1〜2分待つ)
4. ベッドに座る(1〜2分待つ)
5. ゆっくり立ち上がる
✅ 3. 食事で副腎をサポート
副腎疲労に効く栄養素:
- ビタミンC(果物、野菜)
- ビタミンB群(豚肉、卵、納豆)
- マグネシウム(海藻、ナッツ)
- タンパク質(肉、魚、豆類)
避けたい食べ物:
- 砂糖たっぷりのお菓子(植物油脂❌)
- パン・麺類ばかり(異性果糖❌)
- ジャンクフード、エナジードリンク(カフェインは元気の前借り)
✅ 4. 生活リズムをできたら整える
- 夜寝やすくするために自己指圧(副交感神経優位に)
- スマホは夜9時まで
- 朝は日光を浴びる(15分)
- 軽い運動(散歩、ストレッチ)できたらでOK
✅ 5. 心のケア
一番大切なのは「理解してあげること」
❌「気合いで頑張りなさい!」 ❌「甘えてるだけでしょ!」
⭕️「体が辛いんだよね、わかるよ」
⭕️「少しずつ良くなっていこうね」
⭕️「無理しないで、できることからやろう」
8. 学校との連携:先生にお願いしたいこと
📝 診断書を提出
医師の診断書があれば、学校側も理解しやすくなります。
🏫 具体的な配慮のお願い
- 朝礼の配慮
- 朝礼は座って参加させてもらう
- 体調が悪い時は保健室で休ませてもらう
- 遅刻・欠席の扱い
- 遅刻扱いしない(病気のため)
- 午後からの登校を認める
- 体育の配慮
- 激しい運動は見学
- 水補給を頻繁に
- 教室環境
- 後ろの席(すぐ座れる・保健室に行きやすい)
- 換気の良い場所
大切なのは: ✅ 早期発見・早期治療 ✅ 適切なサポート ✅ 焦らないこと
最後に:ママへのメッセージ
お子さんの起立性調節障害、本当に心配ですよね。
でも、知っておいてほしいことがあります。
これは「体の自動調整システムの壊滅的な不調」です。
お子さん自身も、「自分はダメな人間だ」と思っているかもしれません。
でも、違います。
「体が一生懸命頑張っているけど、今はシステムがうまく動いていないだけ」
そのことを、お子さんに伝えてあげてください。
「あなたは怠けてなんかいない」 「体が辛いだけ」 「ゆっくり治していけばいい」 「ママはずっと味方だよ」
その言葉が、お子さんの心を救います。
【まとめ】起立性調節障害チェックリスト
✅ 立ち上がるとめまい・立ちくらみ
✅ 朝起きられない、午前中ぐったり
✅ 夕方から元気になる
✅ 長時間立っていると気分が悪くなる
✅ 頭痛、腹痛、倦怠感
✅ 集中力の低下
✅ 顔色が青白い
✅ 食欲不振
3つ以上当てはまったら、小児科か起立性調節障害の専門医へ相談を!
📚参考情報
- 日本小児心身医学会「起立性調節障害診療ガイドライン」
- NPO法人起立不耐症と起立性調節障害の会

